覚書程度に読んだ本の記録などなど。
今後思いついた時にやっていこうと思っています。
ちなみに割と辛辣な書評の時もありますので、ご注意を。

私の読む本はかなり偏りがありますが、面白い本があれば何でも読むので教えてください。
でもラブストーリーは勘弁な!!
Sinker―沈むもの (Tokuma novels)

個人的に知り合いにちょっと進めにくい作家No.1な平山夢明ですが、一般的に知られてる小説についてはほぼ読んでいたのに、これだけ未読だったので図書館にあったものを借りてきました。
結果としては読みにくいけど面白かったです。
文章は最近の方が断然読みやすい。けど密度は濃かった作品だと思う。

作品は「羊たちの沈黙」をベースにした形。
「ジグ」と名付けられた幼女連続殺人犯を捕まえるために、過去に連続殺人を犯した危険人物・プゾーの協力を仰ぐことを決めたキタガミ。
彼が気難しいプゾーの興味をひくために用意をしたのは、他人に『沈む』ことができるビトーという男だった…という感じで話が進んでいきます。

この当時から平山夢明の「日本が舞台なんだろうけどどう考えても日本じゃねえよここ」感のあふれる描写と、とことんえげつなくて詳しい残酷描写と、登場人物にバッドエンドが延々と繰り返される展開は変わらないw
ある意味では、児童虐待っていう凄惨な現実を飛躍させた結果の作品という意味合いもあるのかなぁ。問題的というよりはエッセンスといった方がいい程度だったけど。
でも、「ジグ」の殺人衝動は単純に快楽というよりも「知りたい」という欲求のもとに行われているという感じが読み取れて興味深かった。
人間なのに人間とは全く異質な思考回路。そういうものをぞっとしながら読めるという点ではこの作品はなかなか面白いと思う。
ジグの姿が残虐な行動の割にコミカルに描かれているところもあり、吐き気を催す悪なんだけどどこか純粋な面も見え隠れする、そういう複雑なキャラクターになっていて、やってることと表現がちぐはぐなところが味わいでもありましたね。

ビトーの『沈む』というのは、わかりやすく言うとサイレンの幻視みたいなものかな?(他人の意識を乗っ取ることができる、または他者と視覚を共有する)
そこまで重要じゃなかった気もしますが、ジグとのラストバトルでは実に絶望的な演出をしてくれていてよかったですね。

大体登場人物がある意味想像を超える最期ばかりを迎えまくって、最終的には感覚がマヒしていく感じが懐かしかったw
でもジジは可哀想すぎるやろ…
一番可哀想なのはビトーですが、彼はきっと改訂版のSinkerで「その後」が書かれるに違いない。
あれだけ反射反射とあおっておきながら、「彼の行方は杳として知れない」みたいなキタガミの一文で終わらせるなんて許されないだろ。
人間の思考回路とは異質な存在に沈み、愛する恋人を失った失意のビトーがどんな反射を受け、そして彼は「なにを」するのか…
そういうところにも期待が込められる落ちではあったのですが、できれば文章で読みたいな。

政治的に対立する公安と一課、復讐に燃えるヤクザなどなど、いろんな人間関係が出てきた分濃厚だったのかしら。
内容はまあほんとに「羊たちの沈黙」のハニバル・レクターなんだけど、それとはまたちょっと違うアプローチもあって、なかなかに読ませる内容だったと感じました。

本自体にプレミアがついてるって…早く新装版出してください平山先生!